cjc | 2月号-4
 
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21年度調査研究紹介

薄型テレビ(液晶テレビ、プラズマテレビ)用パネルガラスリサイクルのためのオンライン組成分析技術適用に関するフィージビリティスタディ(財団法人機械システム振興協会委託事業、競輪補助事業)

 薄型テレビ本体から取り外したパネルガラスを、オンラインで迅速・簡易に組成識別できる画期的な手法の確立を目指し、フィージビリティスタディを行いました。

 パネルガラスに戻してリサイクルする場合、製品の年式、型式によりガラスの組成が異なるため、ガラスの品質維持のためには、使用済リサイクル用ガラスの組成を事前に識別して分別することが必須となります。また、迅速・簡易の観点から、真空状態等特殊な装置内ではなく、大気中での測定が求められます。

 パネルガラスは目標とする製品規格が厳しいため、ガラス組成も厳しい分析精度が必要です。そのため下記5つの先進分析技術を検討し、オンラインを想定した組成分析試験を行いました。

 1. 技術開発のための基礎試験結果

 電気硝子工業会からパネルガラス試料の提供を受け試験を行いました(表1参照)。

(1)NMR(東北大学にて実施)

 蛍光X線分析では検出できないB、Na、A1 の軽元素を検出できる特徴があることから、オンライン測定のため、医療現場でも利用されているMRⅠ装置の応用技術を想定して試験を行いました(図1)。その結果これらの元素について良好な測定精度が得られることや、測定用の検出コイル(図2)にも一定の目処をつけることができました。

図1 パネルガラスオンライン分析用NMR検出部分の概念図
図1 パネルガラスオンライン分析用NMR検出部分の概念図

図2 NMR検出部分の表面コイル形状
図2 NMR検出部分の表面コイル形状

(2)蛍光X線分析(日本電子(株)、堀場製作所にて実施)

 比較的手近な装置ですが、B、Na、A1 等の軽元素を検出できないことや、大気中では真空雰囲気での測定に比べ測定精度が落ちるという課題があります。オンライン測定ではパネルガラスを移動させて測定するため真空雰囲気にできないため、大気中測定が前提となります。

 試験では、パネルガラスは大気中に置き、蛍光X線分析装置の分光室内部のみ真空にして測定精度の向上を図りました(図3、図4)。分光室と大気を封じ切るフィルムの素材(種類)や厚みによって軽元素の吸収率が異なるため、適切なフィルムも検討しました。

 真空雰囲気よりは精度は落ちますが、A1、Si、K、Ca、As、Sr、Zr、Sb、Baの元素については精度高く測定できることがわかりました(FP法定量分析)

図3 蛍光X線分析装置分光室の封じ切りイメージ図
図3 蛍光X線分析装置分光室の封じ切りイメージ図

図4 産業用エネルギー分散型蛍光X線分析計イメージ図
図4 産業用エネルギー分散型蛍光X線分析計イメージ図

*プラント内の何処にでも取り付けが可能なコンパクト蛍光X線分析ユニットの開発が今後必要

(3)小型シンクロトロン蛍光X線分析((株)光子発生技術研究所にて実施)

 超大型の放射光装置はよく知られていますが、卓上型放射光(シンクロトロン)装置(1MeVで1m×1m)が開発され、遮蔽室も必要なく工場現場への導入が可能となってきました。高強度のX線を発生できるため、大気中で、光源より1m離れた場所に試料を置いても、高精度で蛍光X線分析を行うことができます。通常の蛍光X線分析では大気中の測定精度が落ちる課題があるため、これを改善する目的で、新たに完成した卓上型シンクロトロン装置を使い、試験を行いました(図5)。この結果、K、As、Sr、Zr、Sb、Ba の6元素について、大気中の蛍光X線分析で高精度の測定結果が得られました。

図5 小型シンクロトロン装置(蛍光X線分析)オンライン化装置イメージ図
図5 小型シンクロトロン装置(蛍光X線分析)オンライン化装置イメージ図

*試料全体を1台の光源で照射でき、複数の検出器を並べて測定速度を6秒に上げることが可能

(4)その他の分析技術

 2つの表面分析技術についても試験を行いました。アルゴンプラズマのスパッタやレーザーにより表面に微小の傷を生じますが、対象物がリサイクル用材料であることから、微小の傷がその後の処理に影響を与えないため、今回の試験に含めました。

①高周波グロー放電発光分析((株)堀場製作所にて実施)

 H ~ U(但し、希ガスを除く)の広範囲の元素の組成分析が短時間で可能で、蛍光X線分析では測定できない元素も測定できる特徴があります。ただ測定時に装置内部をアルゴン雰囲気にするため、パネルガラスを装置に押し当てる操作が必要となります(図6)。ガラス表面の組成不安定部等の影響のため明確な精度は確認できませんでしたが、表面から組成安定部(数μ)まで5 分程度の時間がかかる点が課題でした。

図6 高周波グロー放電発光表面分析装置オンライン化イメージ図
図6 高周波グロー放電発光表面分析装置オンライン化イメージ図

*ライン上を移動する板状パネルガラスを装置にセットして測定するためには、試料チャンバーの向きを上向き(分光器をチャンバーの下側に配置)にするとともに、測定後のアノードのクリーニングを自動で迅速に行う機構の開発が必要

②レーザー励起ブレークダウン分光法(LIBS)
 (テクノシステム(株)、産業技術総合研究所にて実施)

 レーザーを直接試料に照射して励起させ、その発光を発光分析する方法です(図7)。大気中でも真空雰囲気と変わらない精度が得られることや、軽元素でもLiから広範囲の元素の組成分析が、1秒以下の短時間で測定可能という特徴をもちます。ガラスの場合励起させにくい欠点がありましたが、今回の試験でレーザー波長・出力の変更により、励起剤なしでプラズマ発光できる目処が得られました。

図7 レーザー励起ブレークダウン分光法(LIBS)の概念図
図7 レーザー励起ブレークダウン分光法(LIBS)の概念図

 2. 今後の展望

 このように廃棄された材料をオンラインで組成分析し、その素材の種類を識別・分別し、リサイクル原料として供給する技術は、パネルガラスだけでなく非鉄金属、レアメタル等多くの素材で高品質の素材を製造するために不可欠な技術と言えます。今後さらにこの技術を発展させていきたいと考えています。

表1 パネルガラス用オンライン組成分析装置の特徴と今後の技術的指針

分析技術NMR
(核磁気共鳴)
蛍光X線分析(市販)小型
シンクロトロン
(蛍光X線
分析)
高周波グロー放電
発光表面
分析
レーザー励起ブレーク
ダウン
分光法(LIBS)
スペクトル比較法FP法定量
分析
(分光室内部のみ真空化)
オンライン分析技術
(大気中の測定が前提)
・MRI型装置の開発
・マジック角回転なしでの測定
スペクトルマッチングソフト相関係数でのガラス種類の識別 全体雰囲気を真空化できないため分光室のみの真空化装置の開発 高強度X線利用による大気中での蛍光X線分析精度の向上 表面分析の活用(表面に微小傷が残るがリサイクル用材料には影響なし) 表面分析の活用(表面に微小傷が残るがリサイクル用材料には影響なし)
測定可能元素
元素で示す)
Na、Mg、Al、Si、K、Ca、As、Sr、Zr、Sb、Ba 大気測定でもガラス種類の識別可能 B、Na、Mg、AlSiCaAsSrZrSbBa B、Na、Mg、Al、Si、、Ca、AsSrZrSbBa (B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、As、Sr、Zr、Sb、Ba) (B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、As、Sr、Zr、Sb、Ba)
測定精度 ○(3元素) ○(ガラス種類の識別) ○(9元素) ◎(6元素) △(検量線がなく明確な精度は不明) ○(今後確認試験が必要)
測定時間 60秒(B,Na,Al) ○(10~30秒) ○(30~60秒) ◎6秒(検出器10台) △(ガラス表面の組成不安定部の除去必要) ◎1秒(今後確認試験が必要)
分析装置単体価格(台) △1,000万円(数T)~1億円(14T) ○(1,300万円) ○(1,300万円) △1億円 (量産すれば低減可能) ○(4,000万円) ○(2,500万円)
運転費 △(液体窒素・ヘリウム) ○(450W) ○(700W) ○(35KW) (6KW) ○(1500W)
今後の技術開発課題 ①表面コイルを改良した平板ガラスの検出装置の開発 ①Bから検出可能な検出器・光学系の開発
②産業用エネルギー分散型蛍光X線分析計の開発
①パターン認識ソフト導入による精度等の向上策
②シンクロトロン装置の製造コスト削減等ための開発
①分光器をパネルガラスの下部に設置した分析装置の開発
②測定部(アノード)自動クリーニング機構
①透明ガラス測定用改良レーザー分析装置の開発
②改良装置による測定精度確認


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