国内発生銅スクラップの約30%、市中回収スクラップに限定するとその約40%が中国等に輸出されている(2005年、世界金融危機以前の状況)。貴重な国内資源である銅系スクラップの国内資源循環システムを再構築し、海外への流出を防止することを目的として、国内で使用できる品質の銅を低コストで分離・選別する技術・システムについて調査研究した。
| 1. 廃家電製品からの銅の分離・選別技術に関する調査結果 | |
家電リサイクル施設における家電4 品目の手解体・手選別の状況及び残部を機械破砕した後の非鉄金属の分離・分別システムの現状を調査した結果、以下の課題が抽出された。
【課題】
①各プラントで回収されたミックスメタルの中から銅を分離・選別するためにはソーター式選別装置が必要であるが、個々のプラントのミックスメタル回収量はソーター式選別装置の処理能力に比較して少ない。
②各プラントでは手解体により配線くず類、モーター等の部品類を取り出しているが、個々のプラントでの回収量は少ないので、それらを機械破砕し、分離・選別システムで銅を回収するまでには至っていない。
③コンプレッサーのシェルの切断によって取り出されるコイルはもう少し手を加えることにより伸銅向けスクラップとして高度利用が可能。
図1 家電リサイクル工程の模式図 |
| 2. 廃自動車から回収された銅系スクラップからの銅の分離・選別技術に関する調査結果 | |
自動車解体施設における部品及びハーネス類の破砕前の取り外し状況並びに自動車破砕施設における非鉄金属の分離・選別の現状について調査した結果、以下の課題が抽出された。
【課題】
①自動車ガラを破砕する際に分離・選別されたミックスメタルから重液選別等によりアルミを取り出した後に残る“ヘビーミックスメタル”には銅が濃縮されているがまだ国内製錬所等に受け入れられる品位に達していない。
②ソーター式選別機で“ヘビーミックスメタル”から銅を分離・選別し、国内の銅製錬所に売却する先端的な事業者もいるがまだ少ない。その普及促進が必要。
図 使用済み自動車と銅系リサイクル原料の流れ |
| 3. 銅系非鉄金属スクラップの国内循環向上対策 | |
【国内循環向上のためのシステム、方策】
①複数のプラントで回収されたミックスメタルを一カ所に集め、銅を高品位に選別する集合処理プラントの設置
a.複数の家電リサイクル施設からのミックスメタルを集合して処理するプラントの設置
特に家電系リサイクル施設の場合、各社がそれぞれ自社で処理しようという傾向が強いが、各プラントでのミックスメタル発生量は少ないのでミックスメタルの高度選別装置を各家電リサイクルプラントがそれぞれ単独で持つことは効率が悪いと言える。複数の施設から出るミックスメタルを集めて処理量を増やし、設備を高効率運転することが重要である。
b.使用済み家電、使用済み自動車の小型モーター等を専門に破砕する工程の設置
小型モーター類を専用破砕機等で粒度をコントロールして銅と鉄の破片にし、ミックスメタルの選別工程を通すことによって銅の国内循環が可能になる。
②自動車系ミックスメタル選別施設への家電系ミックスメタルの合流処理
③被覆付銅線を受け入れられるように銅製錬所、伸銅メーカー側での設備改良
a.伸銅メーカーの設備に被覆等付着のままで投入できる前処理設備の整備
原料投入前に銅線の被覆、絶縁紙、エナメル等付着のものを処理する選別機あるいは培焼炉等を設置すれば、被覆材等が付着のものでも使用可能になる。
b.国内循環促進のためにナゲット化を経由しないハーネス類の回収システムの構築
銅の回収を最優先にしたシンプルな処理システムを構築し、培焼炉設備と結び付け、被覆材を培焼炉で焼却処理できるようになれば、銅の国内循環が可能になる。
c.外部加熱方式銅製錬技術設備の整備
外部加熱方式の溶解炉を使った製錬方式ではエネルギーバランス上の制約懸念から開放される。将来回収量が増加したときに備え、安定して原料を入手できる仕組みを検討し、回収銅の製錬に主眼を置いた新しい製錬設備の整備が必要である。
④新規技術の開発
a.高品位銅の回収による伸銅での利用の拡大
高純度な銅が回収されている例があるが伸銅品への利用にはあと一歩のところで止まっている。回収する銅の品位を上げて伸銅業界で受け入れられる様にする必要がある。
b.ソーター式選別装置の高性能化
銅系非鉄金属(銅、黄銅、青銅等)は特有の色をしていることから、CCDカメラによる画像解析技術を応用した色彩選別機が注目される。この他にも高周波(渦電流)式金属検知方式、X線による金属密度検知や蛍光X線分析方式等の金属(種)検知手段があり、それらを組合せて判断、あるいは同一装置で対象物により検知端を切り替えて検知する等様々な技術が開発されている。それらを普及させるには、検知システムの高度化、高速化による処理能力アップ、検知後の分離機構の改良(3種以上の金属の分離)や装置全体の低価格化のための技術開発が望まれる。
c.全国に配置されている家電リサイクル工場でも対応できる小型装置の開発
集合処理の推進の一方、小規模プラントでも採用できる安価な小型選別設備の開発が望まれる。
d.エコデザインの拡充
効率的な破砕・選別を行うには、対象物に含有される素材が単体分離しやすい状態にあることが望ましい。すなわち、製品設計時にactive disassembly等の工夫がなされた設計がなされていれば、従前に比べてはるかに少ないエネルギーで素材ごとの単体分離が可能である。各種素材の分離回収には、なるべく有り姿で行うことが省エネルギー的・環境調和的であり、エコデザインが重要である。
図 家電・自動車リサイクルプラントからの銅含有部品、 ミックスメタルの国内循環向上システム(構想)
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薄型テレビ(液晶テレビ、プラズマテレビ)は、地上アナログ・テレビ放送が終了する平成23年(2011年)を控え、急速に普及しており、本年4月には家電リサイクル法の再商品化品目に追加されています。
しかし、主要な部品であるパネルガラスは確立されたリサイクル技術がないのが現状です。
元のパネルガラスに戻すことが有効なリサイクルですが、製品の年式、型式により組成が異なるため、リサイクル製品ガラスの品質の維持等のためには、使用済みのリサイクル用ガラスの組成により事前に識別して分別することが必須となります。
また、迅速・簡易の観点から、真空状態等特殊な装置内で行う測定でなく、大気中での測定が求められています。
そこで、テレビ本体から取り外したパネルガラスを、そのままの状態で、ライン上で迅速・簡易に組成識別を可能にする画期的な手法の確立を目指し、フィージビリティスタディを行いました。
4種類のパネルガラス試料を使った基礎試験では、NMR、蛍光X線分析(スペクトル比較法と FP法定量分析)、小型シンクロトロン(蛍光X線分析)ともに、分析元素等に制限はあるがパネルガラス組成を識別できる精度が得られました。
この結果を元に、オンライン化技術開発の基礎試験計画をまとめました。
平成21年度についても、オンライン化技術開発のための基礎試験を行い、オンラインでパネルガラスの組成識別のできる分析技術の開発のためのフィージビリティスタディを継続いたします。
報告書の要旨は次のとおりです。
| 1. パネルガラスリサイクルの経済効果試算結果 | |
便益合計 | 3,531(百万円) |
① 埋立処分量削減便益 | 2,790(百万円) |
② 生原材料削減による資源の採取削減 | 690(百万円) |
③ ガラス溶解炉での省エネルギー | 47(百万円) |
④ CO2排出抑制(溶解炉) | 4(百万円) |
(パネルガラスのリサイクル量を国内生産量(12万t/年)の50%として計算) |
| 2. 基礎特性の確認試験結果 (4種類の代表的パネルガラス試料で試験を行った) | |
Ⅰ.NMR(東北大学で実施)
Na, B, Al(3元素)について満足できる精度を得られた。
図1.NMR技術を使用してパネルガラスをオンライン識別する場合の測定イメージ図 |
Ⅱ.蛍光X線分析(市販)(日本電子(株)で実施)
(ⅰ)スペクトル比較法;スペクトルマッチングソフトによる相関係数でガラスの種類を見分けることができた。
(ⅱ)FP法定量分析;Na~Ba(14元素)について真空雰囲気で満足できる精度を得られた。
図2.蛍光X線分析技術を使用してパネルガラスをオンライン識別する場合の測定イメージ図 |
Ⅲ.小型シンクロトロン(蛍光X線分析)((株)光子発生技術研究所で実施)
Zn~Ba(6元素)について満足できる精度を得られた。
図3.小型シンクロトロン(蛍光X線分析技術)を使用して パネルガラスをオンライン識別する場合の測定イメージ図 |
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